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山口地方裁判所下関支部 平成8年(ワ)157号 判決 1998年4月13日

呼称

原告

氏名又は名称

株式会社福本電機

住所又は居所

山口県下関市細江新町二番一号

代理人弁護士

田川章次

代理人弁護士

臼井俊紀

呼称

被告

氏名又は名称

株式会社エス・ケー・テック

住所又は居所

愛知県名古屋市西区上名古屋三丁目一五番一一号

代理人弁護士

異相武憲

輔佐人弁理士

石田喜樹

呼称

被告

氏名又は名称

株式会社モリフジ通商

住所又は居所

愛知県名古屋市中川区中郷三丁目三一九番地

代理人弁護士

異相武憲

輔佐人弁理士

石田喜樹

呼称

被告

氏名又は名称

株式会社コミュニティ・アイドマ

住所又は居所

千葉県松戸市常盤平陣屋前七番地一五

代理人弁護士

深道辰雄

呼称

被告

氏名又は名称

ハイダス通販部こと吉野博明

住所又は居所

千葉県松戸市牧の原二丁目一七一番地

代理人弁護士

深道辰雄

主文

一  原告の被告らに対する請求を全部棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、別紙物件目録(一)記載の商品を製造し、輸入し、譲渡し、貸し渡し、又はその譲渡若しくは貸渡しのために展示・広告してはならない。

2  被告らは、すでに輸入し、製造し、又は第三者をして製造させた別紙物件目録(一)記載の商品とその広告及び説明用パンフレット類を廃棄せよ。

3  被告らは、原告に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する被告株式会社エス・ケー・テック、同株式会社コミュニティ・アイドマ及び同株式会社モリフジ通商においては平成八年六月二九日から、同ハイダス通販部こと吉野博明においては平成八年六月三〇日からいずれも支払済みに至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、時計の製造、販売を業とする株式会社である。

(二)(1) 被告株式会社エス・ケー・テック(以下「被告エス・ケー・テック」という。)は、半導体集積回路の形成部品の輸出業務、電線加工機械の輸出業務、家庭用日用雑貨の輸出入業務とこれらに付帯する業務等を目的とする株式会社である。

(2) 被告株式会社モリフジ通商(以下「被告モリフジ通商」という。)は、日曜大工用品の販売、日曜雑貨品の販売等とこれらに付帯する業務等を目的とする株式会社である。

(3) 被告株式会社コミュニティ・アイドマ(以下「被告コミュニティ・アイドマ」という。)は、家具、インテリヤ用品の販売、輸出入、家庭用電子機器の販売、輸出入業務等とこれらに付帯する業務等を目的とする株式会社である。

(4) 被告ハイダス通販部こと吉野博明(以下「被告ハイダス通販部」という。)は、被告コミュニティ・アイドマの代表者であるとともに、右の名称をもって通信販売業を営む者である。

2  意匠権に基づく侵害差止請求

(一) 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有している。

出願 平成六年八月一二日

登録 平成八年四月八日

登録番号 意匠登録第九五七三五五号

意匠に係る物品 掛け時計

登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり

(二) 本件意匠は、掛け時計の形態に係り、その構成は、次のとおりである。

A 丸型文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置に対応して一羽ずつ計一二羽の野鳥の絵柄を配置するとともに、六時から九時までの毎正時の位置に対応してさらに一羽ずつ計四羽の野鳥の絵柄を配置し、

B 丸型文字盤の周囲に同じく内外周ともに丸型の外枠を取り付け、

C 長針及び短針を備えている。

(三) 被告らの商品

被告エス・ケー・テックは、平成八年四月ころから別紙物件目録(一)記載の掛け時計(以下「イ号商品」といい、同商品に係る意匠を「イ号意匠」という。)を、被告コミュニティ・アイドマ、同ハイダス通販部及び同モリフジ通商等の通販業者を介して販売している。

(四) イ号意匠の構成

イ号意匠は、掛け時計の形態に係り、その構成は、次のとおりである。

a 縦長楕円形文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置に対応して一羽ずつ計一二羽の野鳥の絵柄を配置し、

b 縦長楕円形文字盤の周囲に同じく内外周ともに縦長楕円形の外枠を取り付け、

c 長針及び短針を備えている。

(五) 本件意匠とイ号意匠との対比

掛け時計において最も看者の注意を引く部分は、その正面から見た形態であり、これが意匠の要部であるから、以下その観点から本件意匠とイ号意匠の構成を対比検討すると、次のとおりである。

(1) 本件意匠の構成Aとイ号意匠の構成aとは、野鳥の数が一六羽に対して一二羽である点で相違する。

しかし、本件意匠もイ号意匠も各時計の文字盤の毎正時の位置に野鳥が配置されている点では同じであり、六時から九時までの毎正時の位置に配置される野鳥の数の相違(二羽か一羽か)は、看者に対して異なる印象を与えない。まして、配置される野鳥の種類が意匠として異なる印象を与えることなどない。

したがって、本件意匠の構成Aとイ号意匠の構成aとは、同一の域を出ないか、仮にそうでないとしても、類似している。

(2) 本件意匠の構成Bとイ号意匠の構成bとは、丸型か縦長楕円形かの点で相違している。

しかし、意匠の類否は視覚による判断であるところ、真円と楕円は厳密には区別できないだけでなく、楕円の中にも見る方向によってはほとんど真円に見える形態も存在するのであり、数学的に真円か楕円かによって意匠の類否を判断することなどできない。そして、本件意匠とイ号意匠とを視覚的に比較した場合、イ号意匠は極めて真円に近い楕円であって、本件意匠の丸型と差異はない。イ号意匠は、縦三五・五センチメートル、横二一センチメートルであり、比率にして総一・一四対横一というほとんど真円の比率である。

したがって、本件意匠の構成Bとイ号意匠の構成bとは、同一の域を出ないか、仮にそうでないとしても、類似している。

(3) 本件意匠の構成Cとイ号意匠の構成cとは、同一である。なお、本件意匠の針が小枝の形状をしているのに対し、イ号意匠が通常使用される飾り針の形状をしている点で相違するが、その形状の相違は、看者に対して異なる印象を与えない。

(4) 以上三点にわたって検討したとおりであり、本件意匠とイ号意匠とは、看者に対して異なる美感を与えるものではなく、イ号意匠は、本件意匠と同一といえるほどに類似している。

(六) よって、原告は、被告らに対し、意匠法二〇条一項、三七条に基づき、イ号商品の製造、輸入、譲渡の差止め等及びイ号商品等の廃棄を求める権利を有する。

3  不正競争防止法に基づく侵害差止請求

(一) 原告は、平成六年九月ころから別紙物件目録(二)(1)(2)記載の掛け時計(以下「原告商品1」という。)の、同目録(二)(2)記載の掛け時計(以下「原告商品2」という。)の、同目録(二)(3)記載の掛け時計(以下「原告商品3」という。)の販売をそれぞれ開始した。

一方、被告らは、前記のとおり、平成八年四月ころからイ号商品を販売している。

(二) 原告商品1及び2とイ号商品の形態の同一性について

(1) 原告商品1の形態

D 丸型文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置に対応して一羽ずつ計一二羽の野鳥の絵柄を配置するとともに、六時から九時までの毎正時の位置に対応してさらに一羽ずつ計四羽の野鳥の絵柄を配置し、

E 丸型文字盤の周囲に同じく内外周ともに丸型の外枠を取り付け、

F 長針及び短針を備えている。

(2) 原告商品2の形態

原告商品2の形態は、原告商品1の形態のD、E、Fと構成上は同じである。ただし、原告商品2においては、外枠に、毎正時の位置に対応して直径方向の溝が切られており、また、野鳥の絵柄も原告商品1のそれとは異なっている。しかしながら、外枠の溝の有無や野鳥の絵柄それ自体は、看者に対して異なる形態であるとの印象を与えるものではない。

(3) イ号商品の形態

イ号商品の形態は、前記イ号意匠の構成として説明したとおりである。

(4) 原告商品1及び2とイ号商品の形態の対比

一般に、不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」には「類似」を含まないと解されているが、両商品の形態に単なる微細な相違があるにすぎないような場合には、これらが実質的に同一であるとして、「模倣」に含まれるとされている。すなわち、意匠法における「類似」ほど広くはないが、「同一」よりは広い概念である。そして、掛け時計の形態において最も看者に対して重要なのは、その文字盤と外枠の形状及び両者の組合せである。

そこで、原告商品1及び2とイ号商品の形態とを対比して検討するに、

ア 原告商品1及び2の構成Dとイ号商品の構成aとは、前記のとおり、六時から九時までの毎正時の位置に配置された野鳥の絵柄が二羽であるか、一羽であるか、すなわち、文字盤に配置された野鳥の数の点において相違する。

しかし、原告商品1及び2の構成Dにおいて最も看者の注意を引く部分は、文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置に対応してそれぞれ計一二羽の野鳥の絵柄が配置されている点にある。イ号商品の構成aは、単に原告商品1及び2の形態のうち、六時から九時までの毎正時の位置に対応して配置した計四羽の野鳥を取り除いたものにすぎないのであり、看者に対して異なる印象を与えるものではない。

したがって、原告商品1及び2の構成Dとイ号商品の構成aとは、微細な相違であって、少なくとも実質的に同一の形態である。

イ 原告商品1及び2の構成Eとイ号商品の構成bとは、丸型か縦長楕円形かの点で相違している。

しかしながら、形態が同一か否かは、結局のところ、視覚による判断であるところ、前記のとおり、真円と楕円とは厳密には区別できないし、イ号意匠の形態は、視覚的にも極めて真円に近い楕円であって、原告商品1及び2の形態である丸型と差異はない。

したがって、原告商品1及び2の構成Eとイ号商品の構成bは、微細な相違であって、少なくとも実質的に同一である。

ウ 原告商品1及び2の構成Fとイ号商品の構成cとは、全く同一である。なお、針の具体的な形態が異なっていても、看者に対して異なる印象を与えず、微細な相違であるにすぎないことは前記のとおりである。

エ 以上三点にわたって検討したとおりであり、イ号商品の形態は、原告商品1及び2の形熊と実質的に同一である。

(三) 原告商品3とイ号商品の形態の同一性について

(1) 原告商品3の形態

G 横長楕円形文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置に対応して一羽ずつ計一二羽の野鳥の絵柄を配置するとともに、六時から九時までの毎正時の位置に対応してさらに一羽ずつ計四羽の野鳥の絵柄を配置し、

H 横長楕円形文字盤の周囲に同じく内外周ともに横長楕円形の外枠を取り付け、

I 長針及び短針を備えている。

(2) 原告商品3とイ号商品の形態の対比

ア 原告商品3の構成Gとイ号商品の構成aとでは、原告商品1及び2と同様、六時から九時までの毎正時の文字盤の位置に配置された野鳥の数の点において相違するが、これが微細な相違であって、少なくとも実質的に同一の形態であることも先に述べたとおりである。

イ 原告商品3の構成Hとイ号商品の構成bとは、横長楕円形か縦長楕円形かの点で相違している。

しかしながら、形態として見た場合、横長楕円であれ、縦長楕円であれ、いずれも楕円形である点において同一であるだけではなく、前記のとおり、楕円の中にも見る方向によってはほとんど真円に見える形態も存在するのである。要するに、イ号商品は、原告商品3の横長楕円形を縦にして野鳥を九〇度回転させただけにすぎないものであり、そこには「模倣」でないとするほどの形態の相違をきたすものは何ら存在しない。

したがって、原告商品3の構成Hとイ号商品の構成bは、形態として見た場合、微細な相違であって少なくとも実質的に同一である。

ウ 原告商品3の構成Iとイ号商品の構成cとは、全く同一である。なお、針の具体的な形態の相異が看者に対して異なる印象を与えるものではなく、微細なものにすぎないことは先に述べたとおりである。

エ 以上三点にわたって検討したとおりであり、イ号商品の形態は、原告商品3の形態と実質的に同一である。

(四) 被告らの主観的意図について

(1) 原告商品1ないし3は、毎正時ごとに、これに対応して配置された絵柄の野鳥の鳴き声が集積回路で合成された電子音によって時刻の数だけ報知されるという機能を有しているが、イ号商品もまた同一の機能を有している。

(2) しかも、前記形態の同一性で述べたように、イ号商品は、丸型の原告商品1及び2の形態をわずかに横方向径を短くしたほとんど真円と変わらない縦長楕円形にし、あるいは横長楕円形の原告商品3の形態を縦置きにしたものであって原告商品1ないし3の形態と実質的に同一の外観を呈している。

(3) 右の点を考慮するならば、被告らに原告商品1ないし3の形態を模倣する意図があったことは明らかである。

(五) よって、原告は、被告らに対し、不正競争防止法二条一項三号、三条に基づき、イ号商品の製造、輸入、譲渡の差止め等及びイ号商品等の廃棄を求める権利を有する。

4  本件意匠権侵害及び不正競争行為による損害賠償請求

(一) 被告らによる本件意匠権侵害及び不正競争行為

原告は、六か月以上の期間と多大の資金を投下し、「エルジンバードサウンド」と称する掛け時計(原告商品1ないし3、以下「原告商品」という。)を開発し、月平均六〇〇〇本(台)、売上高にして月平均約一億二〇〇〇万円以上、純利益にして六〇〇〇万円以上を販売していた。しかるに、被告らは、イ号商品が原告商品と形態が同一であるだけでなく、野鳥の鳴き声の音質が悪いなどの粗悪品であるにもかかわらず、あたかも原告商品と同一の品質を有するものであるかのごとく装いながら、原告商品の販売価格よりも低廉な価額でイ号商品の販売活動を行っている。

よって、被告らは、本件意匠権侵害及び不正競争行為に基づく後記損害の賠償義務がある。

(二) 損害

(1) 主位的主張

ア 被告らの行為

被告エス・ケー・テックは、平成八年四月ころから、イ号商品を販売し、本件意匠権を侵害するとともに不正競争行為を行った。また、被告モリフジ通商、同コミュニティ・アイドマ及び同ハイダス通販部は、イ号商品の販売行為が本件意匠権を侵害する行為であるとともに不正競争行為であることを知りながら、被告エス・ケー・テックによるイ号商品の販売行為を援助する意図でイ号商品を販売し、また、被告エス・ケー・テックは、同モリフジ通商、同コミュニティ・アイドマ及び同ハイダス通販部を利用する意図でイ号商品を供給したものであり、被告らの右行為は、民法七一九条一項の共同不法行為を構成する。

イ 損害額

A 主位的主張

原告は、原告商品を月平均六〇〇〇本(台)、売上高にして月平均約一億二〇〇〇万円以上、純利益にして六〇〇〇万円以上を得ていた。しかるに、被告エス・ケー・テックによるイ号商品の販売によって原告商品の販売高が著しく減少し、本来販売できた台数が減少しただけでなく、今後も回復する見込みが立たず、イ号商品の販売中止が認められ、イ号商品が販売されなくなったとしても、本来の販売高を回復するまでには数年を要する。したがって、被告エス・ケー・テックによる本件意匠権侵害及び不正競争行為と原告との損害との間には、少なくとも原告の純利益額の六か月相当分である三億六〇〇〇万円について相当因果関係を認めることができる。

よって、被告らは、共同不法行為による損害賠償として、連帯して、右の三億六〇〇〇万円の損害を賠償する義務がある。

B 予備的主張

原告は、原告商品を一本(台)約五〇〇〇円で仕入れ、通信販売等の小売業者に対して一万円で販売しているので、原告商品一本(台)当たりの純利益額は五〇〇〇円以上である。被告エス・ケー・テックは、イ号商品を六〇〇〇本以上販売しており、被告エス・ケー・テックによるイ号商品の販売がなければ、同数の原告商品を販売できた筈である。したがって、原告は、これにより、右六〇〇〇本に原告の純利益額一本五〇〇〇円を乗じた三〇〇〇万円以上の損害を受けた。

よって、被告らは、共同不法行為による損害賠償として、連帯して、少なくとも、右の三〇〇〇万円の損害を賠償する義務がある。

(2) 予備的主張

ア 被告らの行為

仮に、被告らの本件意匠権侵害及び不正競争行為につき共同不法行為が成立しないとしても、被告ら各自につき、単独の不法行為責任が成立する。すなわち、被告らは、平成八年四月ころから、イ号商品を販売し、本件意匠権を侵害するとともに不正競争行為を行ったのであり、これは原告に対する不法行為を構成する。

イ 損害額

A 被告エス・ケー・テック

a 主位的主張

前記(1)イAのとおり、原告は、被告エス・ケー・テックによる意匠権侵害及び不正競争行為により少なくとも三億六〇〇〇万円の損害を被った。よって、同被告は、右の三億六〇〇〇万円の損害賠償義務がある。

b 予備的主張

被告エス・ケー・テックは、イ号商品を六〇〇〇本以上販売しており、その小売価格は九八〇〇円であるから、その販売高は五八八〇万円を下らない。その利益率が五〇パーセントを下ることはないので、被告エス・ケー・テックがイ号商品を販売することで得た利益額は二九四〇万円以上である。よって、意匠法三九条一項、不正競争防止法五条一項により、原告が右の二九四〇万円以上の損害を被っていることが推定されるから、同被告は、右の二九四〇万円の損害賠償義務がある。

B 被告コミュニティ・アイドマ

被告コミュニティ・アイドマは、イ号商品を三〇〇〇本以上販売しており、その小売価格は四八〇〇円であるから、その販売高は一四四〇万円を下らない。その利益率が五〇。パーセントを下ることはないので、被告コミュニティ・アイドマがイ号商品を販売することで得た利益額は七二〇万円以上である。よって、意匠法三九条一項、不正競争防止法五条一項により、原告が右の七二〇万円以上の損害を被っていることが推定されるから、同被告は、右の七二〇万円の損害賠償義務がある。

C 被告ハイダス通販部及び同モリフジ通商

被告ハイダス通販部及び同モリフジ通商は、イ号商品を各三〇〇〇本以上販売しており、その小売価格は九八〇〇円であるから、その販売高は各二八八〇万円を下らない。その利益率が各五〇パーセントを下ることはないので、同被告らがイ号商品を販売することで得た利益額は各一四四〇万円以上である。よって、意匠法三九条一項、不正競争防止法五条一項により、原告が右の各一四四〇万円以上の損害を被っていることが推定されるから、同被告らは、右の各一四四〇万円の損害賠償義務がある。

5  まとめ

よって、原告は、被告らに対し、

(一) 意匠法二〇条一項、三七条又は不正競争防止法二条一項三号、三条に基づき、イ号商品の製造、輸入、譲渡の差止め等を

(二) また、同法条に基づき、イ号商品等の廃棄を

(三) 本件意匠権及び不正競争防止法に基づく損害賠償として、各自金三〇〇〇万円(前記損害中金三〇〇〇万円を越えるものについては、一部請求として)及びこれに対する不法行為後の日である被告エス・ケー・テック、同コミュニティ・アイドマ及び同モリフジ通商においては平成八年六月二九日から、同ハイダス通販部においては平成八年六月三〇日からいずれも支払済みに至るまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を

求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2について

(一) 請求原因2(一)の事実は認める。

(二) 請求原因2(二)の事実のうち、本件意匠が掛け時計の形態に係るものであることは認めるが、その構成が原告主張のとおりであるとの事実は否認する。

(三) 請求原因2(三)の事実は認める。

(四) 請求原因2(四)の事実のうち、イ号意匠が掛け時計の形態に係るものであることは認めるが、その構成が原告主張のとおりであるとの事実は否認する。

(五) 請求原因2(五)の事実は否認する。

本件意匠とイ号意匠とを対比すると、両者は以下の点で相違する。

(1) 本件意匠の外枠及び文字盤の形状は、丸型であるのに対し、イ号意匠のそれは、縦長楕円形である。

(2) 本件意匠の掛け時計の外枠は、幅が狭く、平坦であるのに対し、イ号意匠のそれは、幅広であって、正面から見て緩やかな三段構造となっているため、三層となって現れている。

(3) 本件意匠の文字盤の毎正時の位置に配置された野鳥の絵柄の数は、一二時から五時までと一〇時、一一時の位置に配された野鳥が各一羽であり、六時から九時までの位置に配された野鳥が各二羽であるのに対し、イ号意匠のそれは、いずれも各一羽である。

(4) 本件意匠の文字盤の毎正時の位置に配置された野鳥の絵柄は、日本国内に生息する野鳥を絵柄にしたものであるのに対し、イ号意匠のそれは、主に台湾に生息する野鳥である。

(5) 本件意匠の文字盤上の長針及び短針は、小枝の形状を形取ったものであるのに対し、イ号意匠のそれは、幅広の飾り針である。

以上の各点においてイ号意匠は本件意匠と相異しており、全体の美感においても全く異なる印象を与えるのであるが、特に、イ号意匠の外枠は、前記のとおり、正面から見て緩やかな三段構造になっており、三層となって現れているため、相当な重厚感を与えるのに対し、本件意匠の外枠は、ごく通常に見られる平坦なものであるから、両者は全体の美感を異にする非類似の意匠である。

3  請求原因3について

(一) 請求原因3(一)の事実のうち、被告らが平成八年四月ころからイ号商品を販売していることは認めるが、その余の事実は知らない。

(二) 請求原因3(二)及び(三)の事実は否認する。

前記のように、イ号商品は、原告商品1(本件意匠と同一の形態を有する商品)とは非類似であるから、不正競争防止法二条一項三号の規定には該当しないし、また、原告商品2及び3についても、イ号商品はこれらのいずれの模倣でもないから、右規定に該当しない。

すなわち、不正競争防止法二条一項三号の形態模倣とは、原型となる商品の形態を盗用してこれと同一又は実質的に同一のものを意図的に作り出すことをいい、ここで実質的に同一とは、全体を観察してその両者の特徴が全く同一であることをいうとされている。

既に詳述したように、イ号商品と原告商品1とはその特徴点が大きく相違しており、その形態が実質的に同一といえるものではない。また、原告商品2及び3についても、当該商品は、まず、原告商品1と同様、その各文字盤の毎正時の位置に配置された野鳥の数及び絵柄がイ号商品と相違するほか、原告商品2は、外枠がかなり幅広となっていて、当該外枠上には時刻を表す目盛りが刻まれており、原告商品3は、外枠及び文字盤の形状が横長楕円形であって、当該外枠もかなり幅広に成形され、外枠表面には数条の溝が外形に沿って形成されている。そうすると、イ号商品は、外枠の形態においても原告商品2及び3と顕著に相違しているから、これらが実質的に同一とはいえない。

(三) 請求原因3(四)の事実は否認する。

4  請求原因4の事実のうち、被告らがイ号商品を平成八年四月ころから販売していることは認めるが、その余の事実は不知ないし争う。

第三  証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  意匠権に基づく侵害差止請求について判断する。

1  原告が本件意匠権を有していること、被告らが平成八年四月ころからイ号商品を業として販売していること、本件意匠及びイ号意匠が掛け時計の形態に係ることについては当事者間に争いがない。

なお、証拠(甲一二、一三の一)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠権については、訴外株式会社永光から原告に対してなされたその登録無効審判事件(平成八年審判第一八一九八号)において、特許庁が、平成九年九月九日、本件意匠が先行の出願に係る意匠、意匠登録第九四一一九一号(訴外株式会社イマジン出願)の意匠(以下「イマジン意匠」という。)に類似するとの判断を示し、本件意匠の登録を無効とする旨の審決をしたこと、そこで、原告は、同年一〇月一六日、右株式会社永光を被告として右審決の取消しを求める訴えを提起し、同訴訟は、現に東京高等裁判所に係属中であることが認められるところ、次に述べる当裁判所の意匠の類否に関する見解は、右無効審決前、すなわち、あくまで本件意匠が特許庁により意匠登録を受けている段階において、かつ、これがイマジン意匠に類似しないとの特許庁審査官の判断を前提とするものである。したがって、当裁判所の見解と右無効審決の見解とは、特に外枠及び文字盤の点において評価を異にしており、しかも、意匠権の存否それ自体を決する権限を有するのは、特許庁であって決して当裁判所ではないから、現時点では右無効審決の見解が十分に尊重されなければならず、当裁判所としてもその見解を改めるにやぶさかではないけれども、なお仮に、本件意匠がイマジン意匠に類似しないとの前提に立った場合に、本件意匠とイ号意匠とについていかなる見解が導かれるかを述べるものである。

2  そこで、本件意匠とイ号意匠の類否について判断する。

(一)  前記当事者間に争いがない事実、証拠(甲一の一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠の構成は、以下のとおりであると認められる。

(1) 丸型文字盤の周囲に内外周ともに丸型の外枠を取り付け、

(2) 丸型文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置に、ほぼ同じ大きさの種類の異なる野鳥の絵柄を、一二時から五時までと一〇時、一一時の毎正時の位置に一羽ずつ、六時から九時までの毎正時の位置に二羽ずつ配置し、

(3) 小枝の形状をした長針及び短針、秒針を備えている掛け時計である。

(以上につき別紙意匠公報及び物件目録(二)(1)の商品の写真参照)

(二)  他方、前記当事者間に争いがない事実、証拠(甲三の一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、イ号意匠の構成は、以下のとおりであると認められる。

(1) 縦長楕円形文字盤の周囲に内外周ともに縦長楕円形の外枠を取り付け、

(2) 縦長楕円形文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置にほぼ同じ大きさの種類の異なる野鳥の絵柄を一羽ずつ配置し、

(3) 飾り針の形状をした長針及び短針、秒針を備えている掛け時計である。

(以上につき別紙物件目録(一)の写真参照)

(三)  そこで、右認定の事実をもとに本件意匠とイ号意匠を対比するに、両意匠は、丸型又は縦長楕円形文字盤の周囲に外枠が取り付けられている点、その文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置にほぼ同じ大きさの種類の異なる野鳥の絵柄が配置されている点、長針、短針及び秒針を備えている点で一致しているが、文字盤及び外枠の形状が、本件意匠では内外周ともに丸型であるのに対してイ号意匠では内外周ともに縦長楕円形である点、文字盤に配置してある野鳥の数が、本件意匠では一二時から五時と一〇時、一一時の毎正時の位置に一羽ずつ、六時から九時の毎正時の位置に二羽ずつの合計一六羽であるのに対して、イ号意匠では一二時から一一時までの毎正時の位置に一羽ずつの合計一二羽である点、長針及び短針の形状が、本件意匠においては小枝状であるのに対してイ号意匠においては飾り針である点において相違している。

ところで、意匠の類否の判断は、一般需用者の立場から見た美感上の類否の判断であり、具体的には、意匠に係る物品の同一又は類似を前提とした上で、意匠の構成要素のうち最も看者の注意を引く部分を意匠の要部として把握し、両意匠の要部がどの程度に共通するかを基準にしながら、両意匠を全体的に観察して視覚的印象の異同により判断すべきものである。

よってこれを本件についてみるに、本件意匠において最も看者の注意を引く部分、すなわち、その正面から見た形態は、外枠が丸型で、かつ、丸型文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置にほぼ同じ大きさの種類の異なる野鳥の絵柄が配置されていることであって、これら野鳥の絵柄、文字盤、外枠が順次同心円上に配置されることによって円満、柔和な調和感を醸し出すとともに、これが小枝の形状をした長針及び短針と相まって自然の野鳥の姿を彷彿させるという独特の美感を与えている点にあること、すなわち、本件意匠の要部は、▲1▼外枠、文字盤がともに丸型であること、▲2▼その丸型文字盤の一二時から一一時までの毎正時の位置にほぼ同じ大きさの種類の異なる野鳥の絵柄が配置されていること(六時から九時までの毎正時の位置の野鳥の数の相異は、意匠全体の構成意図、絵柄の配置構成に照らして要部とならないと認める。)、▲3▼小枝の形状をした長針及び短針を備えていること、以上の三点にあるというべきである。

そこで、右の見地から本件意匠とイ号意匠とを対比して検討すると、イ号意匠は、外枠及び文字盤の形状がともに縦長楕円形であり、そのため、その文字盤に描かれている野鳥の絵柄も縦長楕円形に配置されており、この点において決定的に本件意匠と相違していることが明らかであり、ひいて全体的観察においても、本件意匠とは相当に視覚的印象を異にし、美感上も、本件意匠が丸型であることから生じる円満、柔和な調和感を基調とするのに対し、イ号意匠は縦長に細身となった関係から生じるスマート感を基調にしており、本件意匠について述べた前記独特の美感とは異質なものとなっているというべきである。

(四)  よって、イ号意匠は本件意匠に類似せず、意匠権侵害にはあたらない。

3  なお、原告は、真円と楕円は厳密には区別できないだけでなく、楕円の中にも見る方向によってはほとんど真円に見える形態も存在し、事実、イ号意匠の外枠と文字盤の形状は、比率にして縦一・一四対横一という真円に極めて近い楕円であるとして、イ号意匠は、外枠と文字盤の形状の点においても本件意匠と類似している旨主張するが、別紙物件目録(一)の写真によれば、イ号意匠の外枠と文字盤の形状は、右比率の如何にかかわらず、一見して縦長楕円形と判別できることは明らかであり、これが真円に極めて近いということは到底できない。

よって、原告の右主張は採用できない。

4  以上の次第であり、原告の被告らに対する意匠権に基づく侵害差止請求(請求原因2)は、イ号意匠が本件意匠権を侵害していないから、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  不正競争防止法に基づく侵害差止請求について

1  被告らが平成八年四月ころからイ号商品を販売していることは前記のとおりであり、証拠(甲二の一、甲二の三及び四、甲六)によれば、原告が平成六年九月ころから原告商品1ないし3の販売を開始したことが認められる。

2  そこで、イ号商品が原告商品1ないし3の形態を「模倣」したものであるか(請求原因3(二)及び(三))について検討する。

(一)  まず、不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」の意味について考えるに、同号によれば、それが同種の商品ないしその機能及び効用が同一又は類似の商品の形態の模倣に限られており、しかも、かかる同種の商品等にあっては、その機能、効用的特性、製作技術上の制約や流行、ブームの推移等からある程度の類似が生じるのは必然的であることなどに鑑みると、右「模倣」とは、原型となるある商品に依拠してその形態と客観的又は実質的に同一のものを意図的に作り出すことをいい、単に原型商品の形態に類似しているというだけでは足りないというべきところ、ここに実質的に同一のものまで含める趣旨は、あえて些細な相違点を付加ないし除去することによって同法所定の規制を潜脱する行為を防止せんとの意図に出たものにほかならないから、結局、「模倣」とは、全体的観察において原型商品の複製を作り出したのと同視できるといえるほどに極めて限定された概念であると解される。

(二)  よってこれを本件についてみるに、証拠(甲二の一、甲二の三及び四)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品1及び2の形態が請求原因3(二)(1)及び(2)のとおりであり、原告商品1については、本件意匠を実際に商品化したもの、同2については、同1と対比してその外枠の構と野鳥の絵柄において若干の相違があるものの、なお本件意匠と酷似していて右相違は看者に対して異なる印象を与えないと認められるところ、本件意匠がイ号意匠と類似すらしていないことは先に判断したとおりであるから、これと同様の理由により、イ号商品が右各原告商品と実質的に同一であるとは到底いえないこともまた明らかである。

次に、原告商品3についてみるに、証拠(甲三の一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、同商品の形態が請求原因3(三)(1)のとおりであると認められるところ、これとイ号商品とを対比すれば、原告商品3の外枠及び文字盤が横長楕円形であるのに対してイ号商品のそれが縦長楕円形である点において特に顕著な相異があり、イ号商品が原告商品3の形態と実質的に同一であるとは到底いえない。原告は、イ号商品は原告商品3の横長楕円形を縦にして野鳥の絵柄を九〇度回転させただけにすぎないと主張するが、掛け時計においてはその正面から見た形態が時刻表示との関係からしても最も重要であることは論をまたず、その点において横長の形態か縦長の形態かは決定的に相異するのであって、前記説示の「模倣」の意味に照らしても、右主張はおよそ採用の限りではない。

(三)  よって、イ号商品は、原告商品1ないし3の形態を「模倣」したものにはあたらない。

3  以上の次第であり、イ号商品は原告商品1ないし3の形態を「模倣」したものではないから、原告の被告らに対する不正競争防止法に基づく侵害差止請求(請求原因3)は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  本件意匠権侵害及び不正競争行為による損害賠償請求について

前記のとおり、イ号意匠は本件意匠権を侵害せず、また、イ号商品は原告商品の形態を「模倣」したものにはあたらないから、その余の点について判断するまでもなく、本件意匠権侵害及び不正競争行為による損害賠償請求には理由がない。

なお、原告は、前記二1のとおり、本件意匠権を無効とする特許庁の審決がなされたことを前提に、本件口頭弁論終結の日である平成一〇年二月九日、原告が訴外株式会社イマジンからイマジン意匠権を譲受け、平成九年七月一四日、特許庁にてその旨の登録を経たとして、予備的に、被告らに対し、イマジン意匠権に基づく侵害差止及び損害賠償の請求を追加した(ただし、平成九年一二月一八日付準備書面による。)が、これは本件意匠権に基づく侵害差止請求権等とは訴訟物を異にしており、しかも、イ号意匠とイマジン意匠権との類否に関する判断や原告がイマジン意匠権を取得した後に生じた原告の損害額の認定に当たっては、さらに当事者の主張、立証を重ねて審理を尽くす必要があるところ、右訴えの変更前の請求についてすでに裁判をするのに熟した現段階においては、右さらなる審理が本件訴訟手続を著しく遅滞させることは明らかというべきであるから、右訴えの予備的、追加的変更はこれを許さないのが相当である。

五  結論

よって、原告の被告らに対する請求は全部理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年二月九日)

(裁判長裁判官 近下秀明)

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